加計学園の岡山大学獣医学部獣医学科新設。
岩盤に穴を開けると言いつつ学部の新設に力を注ぐ内閣。果たして国民はそれで幸せになるのかな。
小動物獣医師の僕としてはこれから10年後20年後を考えると飼育者数は減少する計算もあるし、それが本当だとするとこれ以上小動物臨床獣医師は必要がなくなるばかりか、小動物臨床獣医師数も減少してゆくことになる。
産業動物獣医師(牛・豚・鶏)は国民の食の基盤を支えているだから絶対に必要。だから減らしてはならない。現存する大学で学生の意識に訴えかける努力をするだけでもよい結果がでるかもしれないし、新たな大学を作ってもその保障はない。大動物の可愛さ。皆はまだ知らないだけ。とってもおおらかな、そして繊細な表情を持っていることを知っているだろうか。草食動物ならではの雰囲気が牛にはある。馬にもある。ただ豚は怖い。豚は怒れば向かってくると言う。僕は豚の現場を知らないけれど、聞けばオス豚はそうとうヤバイのもいるらしい。一方ニワトリはほぼオートメーション化されちょっと悲しげでもある。
馬は特殊で今や産業動物としての位置は微妙になっている。競走馬は国家の許す公営ギャンブルの一つである。その位置はかなり特殊であり、診察する獣医師も相当特殊な技術と経験・施設を必要とする。間違っても小動物獣医師が馬の診察など出来ない。
バイオサイエンスに特化した学生を輩出したければ、現存する大学を強化するだけで済む話。
国家公務員、地方公務員の獣医師が不足している言われているが、大きな理由は給与面であることを隠し続け、学生数だけを増やしてその計算が成り立つと思っているのが不思議。
現在公務員給与のランクは医・歯・薬・獣の順番で決められており、たとえ仕事内容が同じでも給与はこのランクを基準にしか算定されていない。ところが現場では公衆衛生(食中毒などの管理監督、検疫業務)や食肉検査(膨大な量の肉の検査、伝染病の管理監督、発生した時は体力の続く限りそれに当たる)などとても危険でしかも相当乱暴な言葉も掛けられながらの業務もまれではないと聞く。
日本獣医師会は長年公務員給与の是正を求めて提言してきたが、全く聞き入れられず、それどころか学生数をただ増やすと言うことで「改善」と言うのだから、どれだけ現場を見ていないが伺える。日本獣医師会はたかだか3万ちょっとの小さな団体ゆえに提言力が乏しいのはわかるが、現場の意見を聞かずして経済効果だけを優先する国の方針にはいささか怒りすら隠せない。
他の学部をとやかく言う資格はないが、歯学部、薬学部が既に増設認可され今に至り、排出された学生達は果たして今全てが国家資格を得て業務に携わる事が出来ているのだろうか。聞くところでは大学により国家試験合格率が様々で、あぶれてしまっているとも聞く。大学に晴れて入学できたはいいが、卒業そして国家試験受験となるともっと茨の道が待っているのでは学生諸子やその家族が惨めな思いをする。そのとき学生は順調に来ても24歳。そのまま国家試験浪人をして進むのか、方向転換を図るべく努力をするのか。運よく方向を変える事が出来た人はまだ良いが、出来ずにトラウマだけが残る人生を国家は補償できるのだろうか。
学部増設には様々な思惑と人生が交錯しているように思うのは僕だけだろうか。
「真と問う」とはどういうことか。今一度考えたい。